ワタシはワタシで、あなたはあなた。
ワタシはあなたじゃないし、あなたはワタシじゃない。
なんていうことは吐いて捨てるほど言われているし、
誰もが自分で思っていて自らも言葉にしたりする。
多様性の時代。個の尊重。
そんなことを言っていても、意識してかしないでか、
個でなく“枠”として一緒くたに“あなたたち”としているときも結構あると思う。
性別、グループ、チーム、部署、学校、会社、業種、地域、国・・・・・・。
個と個はそれぞれ違うはずなのに、「あいつらは○○だ」みたいに一括りにしちゃったり。
自分に向く矛先には「自分は違うのに」とか言っちゃうくせに。
まぁ、メディアとかにイメージとして印象づけられていたりするから、
悪気は無いかもだけど。
今回は「だからずっと言ってるんだ 初めから 僕で あなたで 人だって」という
SUPER BEAVERの『切望』の歌詞を改めて意識した話。
5月をなんとか働き切って疲労困憊の6/1(土)の昼過ぎ。
ワタシは大濠公園で太陽の陽にさらされていた。
どうでもいい話だが、ChatGPTに会議の議事録を作らせた際、
最中にワタシが発した「今日はノンストップで面談、会議の連続で疲労困憊です」
のセリフを拾い、
「疲労困憊のちゅんタロスから○○について提言」という文章が書き起こされたのを見て、
疲労で脳みそがなめらかプリンくらいに溶けていたワタシは
「おれの奮闘ぶりを汲んでくれるなんて、人間よりよっぽど愛があるじゃないか」
とか思う余裕はなく、自席で独り笑ってしまった。
舞台を大濠公園に戻す。
土曜日なので相変わらず人の往来は多いが、ワタシのもとで足を止める人はいない。
まぁ、いつものこと。
小腹が空いたのでおやつ用に買っていたカロリーメイトを
ひと口頬張った途端に話かけられたりするのでたまったものじゃない。
返答しようにもカロリーメイトのパサパサで口の中の水分は持っていかれているので
モゴモゴする以外は何もできない。
「私、本を書けるくらい壮絶な人生を歩んでるんです」
チャリに跨ったままの女性は最初はカウンセラーにでもなろうとしたらしいが、
自分より大したことない悩みに対して「それくらいのことで」と思ってしまい、
傾聴できないと分かったようで、
占いとコーチングにしようかと1年くらい迷っているらしい。
「そちらの方が向いていると思うので、ぜひ始めましょう」
「やっぱりそうよね。それが聞けて良かった!
こういうのやるなら夕方の方が人が多いから良いと思うよ」
「ありがとうございます」
早速ワタシにアドバイスをくれた彼女は颯爽とチャリで去っていった。
彼女の言う通り、まだ夕方ではなかったからか、どういうわけかいつの間にか肩に乗っていた
カロリーメイトの屑のせいかは分からないが、その後しばらく人は来なかった。
それに反して、園内は中国からの団体ツアー客で溢れかえっており、
赤い服や赤い旗を振りかざし、
集合写真っぽいことしているのに何故か大合唱をし始めるなどカオスな状況。
そして、そんな彼らはいつもワタシに興味を示し、
純度100%の自国の言葉で一方的に話しかけてくるので、
今日ばかりはそうはさせまいとワタシは視線を下に向ける。
まずい。
視線の先にワタシの靴が目に入る。
赤い。
共通項ができてしまっているじゃないか。
よりによって赤いニューバランスを履いてきてしまった。
ここで新しい調和が生まれては困る。
彼らが来ることなど知らないので失敗でもなんでもないのだが、
ワタシは失敗を感じてしまった。
「何されてるんですか?」
団体とは逆方向、つまりワタシの意識からも逆方向から聞こえてくる女性の声。
ハラハラしているワタシの気持ちなど知る由もないフラットな柔らかい声。
「えっ?」
「悩みとか聴かれているんですか?」
「あっ、はい」
自分より一回りは若そうな女性2人組に対し、狼狽した表情で見上げたワタシは、
人の悩みどころか話もロクに聴けるのか?ってレベルのショボい返答を返してしまう。
泳いでいるであろうワタシの視線はサングラスが上手く隠してくれていることを願う。
「良いですか?」
了承を示すワタシのリアクションと同じ速さでチェアに座り、
自分に悩みはなくポジティブだと教えてくれた。
ワタシに話しかけてくる人は一定数悩みを持っていない。
好奇心から話しかけてくれる。
ワタシのよりレンズの濃いサングラスをかけているこの女性もその一人のようだ。
話を聴くと、この女性はアメリカ在住の韓国人で福岡に遊びに来ているところだと言う。
もう一人の女性が福岡在住の韓国人でオトモダチとのこと。
ふたりが話す日本語はとても流暢で会話に困ることが一切ない。
特に福岡在住レディはイントネーションも完璧で全く違和感がない。
アメリカ在住レディは英語と韓国語の通訳と翻訳の仕事をしていて、
加えて日本語の通訳も出来るようになりたいのだそうだ。
充分やれそうだと伝えると、「専門用語とか難しくて」と
医療系の通訳だと追加情報をくれた。
そりゃ専門中の専門用語なんだろうな、と医療に無知なワタシでも想像がついた。
「同じことだと飽きちゃう。 新しいことを出来るようになって、能力が上がるのが好き」
なんで日本語の通訳まで出来るようになりたいのか聞いたワタシに、
笑顔で教えてくれる彼女はまさにポジティブでアクティブでパワフルに感じた。
始めは悩みは無いと言っていた彼女だがやりたいことが多く、
時間が無いことは悩みだと語った。
時間が無いなりに、仕事が終わった後は日本のドラマを観て言葉を勉強したり、
ベースの練習もしていると続けた。
(ちなみに日本に来て、日本の人と話して会話上達させているようで、
本での勉強は「つまらない」とほとんどやっていないそう。スゲェ)
なんでも東京事変、椎名林檎が好きでガールズバンドを組みたい、
という望みも持っているらしい。
(アメリカ在住なので)周りはヘビメタとかパンク好きばかり、
尚且つ男ばかりなのだという。
「本当は音楽が一番やりたいけど、それだけで食べていくのは難しいから」
専門中の専門通訳・翻訳までこなす彼女でも現実の難しさと向き合うんだなぁ、
と変な感心をしてしまう。
日本カルチャーが好きっぽいので、友達のように日本に住めたら良いんだろうけど
仕事上アメリカを離れられないんだろうな、
と思っていたらリモートワークだからアメリカの必然性はないらしい。
東京を捨てて福岡に居ついているワタシは福岡移住を勧めるが
「引っ越しが面倒くさい」などと言うものだから、
「いやいや、ポジティブなのにソコ面倒くさがるのね」と思わず突っ込んでしまった。
ハイスペックでポジティブでアクティブでも面倒臭さには勝てないらしい。
残念。
皆が皆がそうでないと思っていても、反日感情ゆえのニュースなどを見聞きしていると、
そういうもんかなぁ、とうっかり前提を置きがちだったりするけど、
今日話した彼女にはそういった前提は全く思い浮かばなかった。
これまで話した人と同じく、誰とも同じでない、ってことを感じた。
男だろうが女だろうが若かろうが経年してようが、ナニ人だろうが、
ワタシはワタシであなたはあなたなのだ。
決して、あなたは自分以外ではないのだ。
まぁ、だよね。
とうとうこの活動も国を跨いだなぁ、と満足げに感傷に浸っていると、
とつぜん耳馴染みのない言葉を浴びせられる。
しまった。油断した。
満足感を抱いていたワタシは無意識にニコやかな笑顔を振りまいてしまっていたのか、
やっぱり赤いニューバランスにシンパシーを抱かせてしまったのか、
どちらにしても恐れていた事態が起きた。
当然今回も純度100%の自国の言葉。
ワタシの看板を指さし、やたらと何かを訴えかけてくる。
「シィンリィシィ」
男性は自分の胸と看板の「心理士」の文字とワタシの胸を順番に指さす。
「心理士! オゥイェイ!」
一生懸命に作り笑いでリアクションするワタシに「違う、そうじゃない」的な怪訝な表情しか浮かべない男性。
男性と同じように自分の胸と看板の「心理士」の文字、さらには男性の胸を指さし、
「心理士!」とダメ押しのスマイルを添えて発声。
「違う。なんで伝わらないんだ」と言わんばかりの怪訝な表情。
非言語コミュニケーションではマジで機微しか伝わってこない。
違うのはわかるが、正解がわかんねぇ。
不安いっぱいのワタシを追い詰めるかのようにどんどん増える彼の仲間。
「シィンリィシィ」と仲間同士で説明を始める。
ワタシの話題のはずだがワタシだけが全くついていけない。
いつも通り「ワカンナイ!」と出川のホワイのポーズとともにお見舞いするも、
それすらも伝わらず、怪訝な表情で「シィンリィシィ」を繰り返される。
ワタシも中国のドラマでも観て勉強しないとダメなのでしょうか。
ちょっとは日本語喋ってくれ、と思ってしまったこと、
この人たちはいつも、全くもぅ!と一緒くたに思ってしまった
自分の心のさもしさに夕日が染みた。
いや、日焼けがヒリヒリしているだけか。